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貴方に届くはいつの日か
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あちこち回ってたら面白そうなお題サイトを見つけたのです。
お題は結構好きなんですが、出されるお題にインスピレーションを感じないと書けないという…。

恋愛系の練習に使えそうなので書いてみました。
たまには微エロくらいまでいってみてもいっかな~とか思わないでもなかったですが、今回は一応自粛。
たまってきたらどっかにどかんと発表しよ。


タイトルは 「まずはちゃんと許可を取れ」 です。

 


 とても好きな人がいると告白されたのは二日前。

 くだらない爺たちの責任転嫁ばかりで始終した会議の、一応議論である内容を整理するため、秘書室で作業していたところに奴はいつものようにひょっこりやってきたのだ。
 いつものようにニコニコと愛想笑いを貼り付けて「大変だねぇ」と一応労いの言葉をかけ、勝手に茶をいれ寛ぎ始める。そんな奴を放置し作業を淡々とこなし、一段落つくころに目の前に茶が置かれる。
「ありがとう」
「その迷走した責任の行方は左大臣に決まった」
 覗きこんだ書類を指差しそう情報提供をしてくれる。
「そうか。まあ妥当だな」
 この男との付き合いは学生の頃からで、かなり長い部類にはいる。優秀な奴で今は元老院の筆頭補佐官をしている。
「それで? 今日は何の用だ」
 こいつがこの部屋にくるときは大体問題を抱えている。今回もそうなのだろうと話を振ると「今日は暇つぶし」とうそぶいた。そんなことでこの部屋を訪ねたことなどない奴に言われても、そうなのかと簡単には頷けない。必然的に疑いが向くというものだ。
「何を隠してる?」
「いやだなぁ。この俺が君に隠し事なんてできるわけないでしょう」
 大げさな様子で片手を広げ、愛想笑いを浮かべる奴をじっくりと観察するが、こいつの鉄面皮を看破するのは容易なことではないのだ。
 奴の背負いそうな問題をいろいろと考えてみたが、今のところは至って平和だ。とりあえず奴の言うとおり問題はないのだろうという判断を下した。

 しかし。今思えば、問題はここで発生したのだ。

「…恋?」
 何の話からそんな話題になったのかは覚えていない。
 ただ、軟派で軽薄でいわゆるスケコマシな男にそんな人物がいるとは意外だと思った。
「お前、それは何かの勘違いなのではないか?」
「君も存外失礼だな。俺だって人の子だぞ。人を好きになって当然だろう」
「そうか。それは失礼した」
 謝罪すると奴は困ったように笑って「君はいないのか」と聞いてきた。
「私か? そうだな。今はいないな」
「大方君の場合は仕事が恋人ってところだろうな」
「私は仕事を恋人だと思うほど仕事好きではないぞ」
 爺の相手をするくらいなら若い男のほうがいいに決まっている。そう続けた言葉に「ほう」と意味深な相槌が入る。
「なんだ?」
「いや。若い男なら捜せばいくらでもいるだろう?」
「そうれはそうだがな。私は熱しにくいタイプで、なおかつ自分からは行動に移さない。おまけに…」
「鉄の女だと思われていては手を出す男もいないか」
「…そういうことだ」
 自分に流れる噂や評判は知っている。
 女らしいというにはあまりにも貧相な体に、この男のような愛想笑いもするほうではないし、何より言葉遣いが堅苦しい。そういう風に育てられ、一時期は直そうとも思ったが、多感な時期に培われたものは中々抜けず、気を抜くとこの言葉遣いになるのだからどうしようもない。今ではすっかり諦めた。
 そんな私は巷では「鉄の女」やら「秘書室の魔女」などと呼ばれるようになった。私用で好き好んで話をしてくる若い男といえば、そう、目の前のこの男ぐらいなものだろうか。
「そこでだ。君のような女を落とすにはどうしたらいい?」
「は?」
 身をわずかにこちらに傾け聞いてくる男に眉を寄せたが、すぐに思い至る。この男の好いた人というのがそういう人物なのだろう。
「私の他に鉄の女と言われる人は知らないがな」
「俺は鉄の女を好きになったと言った覚えはないな」
 誰なのだろうと気になりカマをかけてみるが、奴はあっさりとかわしてくれた。
 同じように奥手な女は五万といる。
 まあ、そこまで興味があるわけでもないので追求はしなかった。
「やはりこちらから積極的にいくべきか」
 質問に答えるそぶりがないからなのか、奴は一人で結論に達したようだ。
「お前が悩むほどの人物なのか?」
「俺は噂ほどの女たらしではないんだよ」
 にやりと笑う男の言動にこれっぽちも真実味がない。
 金髪碧眼、少し垂れ目だが、まあ、そこそこいい男の部類だろう。
 赤いピアスを片耳に二つしていて、色んな憶測を呼んでいるらしいが、本人に聞いたところでは形見なのだということだ。
 元老院の筆頭補佐官という固い地位にいるが、どこか悪そうな雰囲気を持つ男で、箱入りのお嬢様方には大変な人気を誇っている。いわく、「遊ばれてもいい男」だそうだ。
「君のような女に言い寄っても胡散臭がられるのがせいぜいだろう?」
「まあ、そうだろうな」
 確かに、昔からの知り合いでなければ親しく話をされたところでその場限りのことだろう。
「幸いなことにとりあえず話をするくらいのことはできているから、問題はその先なんだ」
「どうしたら興味をもってもらえるかということか」
「君ならどうだ?」
 思いのほか真剣に尋ねられ、こういう顔もするのだなと意外に思いつつ、こちらも真剣に考える。
「どれほど奥手な女性かにもよるだろうし、お前に対する好意度にもよるだろう」
「恋愛に関してはあまり経験はないようだったな。俺に対する好意は若干自信がある」
 必要な情報を的確に提供する男の言葉に少々呆れる。
「自信があるなら強行突破が一番効果があるんじゃないか?」
 これほどの男に迫られればどんな女でも悪い気はしないのではないかと思う。
「それにより拒否された場合立ち直れないのだが」
 真剣に、いや深刻と言っていい表情で言われ、思わず目を閉じ眉間を押さえる。
「おい、お前、どこまで考えた」
「男が好きな女にすることなど一つしかないだろう」
「まあ、そうだろうが。とりあえず、その一歩手前で我慢しろ」
「その程度なら許されるのか?」
「お前の言うその程度がどの程度なのかが非常に恐ろしいが、まあ、初期段階でならなんとかなるんじゃないのか? 自信があるんだろう?」
「自信はあるが、その後どうなるかの予測が全くつかないことが俺の行動を止めてるんだ」
 珍しくため息などついて明後日の方角を見る。
 そう、非常に珍しいことにこの男は悩んでいるのだ。それも女のことで。
「私に相談するよりは行動に移したほうが早くないか?」
 大体が事がおきなけらば対策など練れるわけがない。何もせずにぐずぐずしているほうがよほど無駄である。
「今までの経験を活かせ。それ以上に助言してやることなどできない」
 こちらの言葉につかの間沈黙が落ちた。一点を見つめ赤いピアスに触れるのはいつも考え事する奴の癖だ。
 考え事をしている間に出してもらった茶を飲みきる。
 まだ残っている仕事に戻った後も、奴はしばらくそのまま考え事をしているようだった。

 そう、それが二日前の話。

 つい先ほどおきた出来事に思考回路が繋がらない。いや、現実逃避に思わず回想してしまったといったほうが正しい。
 奴はいつものように、ニコニコと愛想笑いを貼り付けて、ひょっこり顔を出したのだ。
 いつもと違っていたのは秘書室ではなく中央図書館であることくらいだ。いつものように軽く挨拶を交わし、何か探し物かと尋ねた。この広大と言っていい図書館では検索された蔵書の場所は分かるが、その場所から一冊を探し出すのが骨なのだ。
 何を探しているのかと尋ねたが、奴は見つけたと言いこちらを向いて立ち止まった。しばらくはその状態でいたのだが、本を探す気配がない。
「私が持っている本の中にあるのか?」
 同じものを探している可能性は十分ありえるので一応聞いてみたが、これが間違いだったと気がついたのは全てが終わってからだった。

「は?」
 予想も予測も全くしていない出来事が起き、私のとった行動は一音で聞き返すというものだった。
「まあ、こんなもんだろうな」
 目の前で幸せそうに笑う男はどこの誰だと問いたいほど、今起きた現実から逃げ出していた。
「君の言う一歩手前はせいぜいこのくらいだと思うんだが、もう少し先まで所望なら応じる用意はあるぞ」
 一歩手前? 何のことだとようやく動いた思考に二日目のやり取りが思い出された。
「いや、ちょっと待て」
 害のなさそうな笑顔で近づいてくる男に、間違いなく危機を感じ後退する。
「強行突破が一番効果があるんだろう?」
「いや、確かにそう言ったがな」
「そうだろう? 俺は何も間違ってない」
「間違うとかいう問題でもなくてだな。だから、おい!」
 背中を向けて逃げるのは得策ではないが、かといってじりじり後退していても状況はよくなるわけではなく、にっこりと笑む男にあっさりと壁に押さえ込まれる。思わず持った本を奴の胸に押し当て、できるだけ距離をとろうとするが全くの無駄だ。
 もう一度近づいてくる顔に思わず目を瞑って下を向いた。
「教えてくれ」
 しかし、予想と違い、耳元にため息と、聞いたことのない切ない声が尋ねてくる。
「君を落とすには他にどうしたらいい? アイリーン」
「…随分と切羽詰っているようだな」
 奴が私を名前で呼ぶときはかなり状況が差し迫っているときだけだ。大抵は仕事でイライラが最高潮のときに笑顔で呼ばれたり、死にそうなほどの激務を助けた時に感謝される時くらいなもので、どちらにしてもめったいにないことだ。
 思わずもれた感想に奴はくすりと笑って少しだけ離れた。
「少しは余裕ができたか?」
 からかっている口調の奴になんだそうなのかと安堵が押し寄せる。
「あのな…」
「俺にはないんだ」
「ヴィクタ…っ」
 抗議しようと顔を上げたところをまた塞がれる。

 実は奴とこの経験自体は初めてではない。
 学生の頃によく虫除けとして借り出されたことがあって、公然とされたこともある。
 それなのに、この動悸はどうしたものなのか。
 本当はからかっているのではないか。
 私が抵抗しない理由はなんなのか。
 交錯する思考を断ち切るような随分と長く、確かめるようなくちづけに、ついに酸欠がやってきて軽くめまいを起こして膝が落ちる。
 それをしっかりと支えた男に酸素を取り込みながら、一つだけ出た答えを言ってやる。

「まずはちゃんと許可を取れ」

 この台詞を言ってしまったことを後悔するのはすぐだった。

 


唇で触れた〇〇のお題/蝶の籠さま
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