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いやぁ。暑いですね。
ちょっと動いただけで汗が滝のようでございます。
水だけじゃ駄目だってことで、スポーツドリンクを飲むようにしてます。
ちょろっと薄めて飲むくらいがいい感じです。
さて、今回もお題。
タイトルは 「戦闘開始のその合図」 です。
中身は王立カルセドニー学園(仮)と同じ世界。
今回は「自覚のない実力者」と「負けず嫌いな俺様」という組み合わせです。
いや、一度俺様男を書いてみたい欲求が爆発した結果です(笑)
王立カルセドニー学園の進級試験はかなりシビアだ。
習得呪法別に組に分けられるのが唯一の処置であり、年齢性別などは全く関係ない。
一つ変わったことがあるのなら、攻守に別れるということだ。自分の得意分野で勝ち上がることができるので、それほどでもないかと思われるが、公平性を高めるために総当りという規則だ。
攻撃に回った者は攻撃一辺倒で、守備に回った者も然り。
どちらが有利かといえば当然攻撃する側である。そのため総当りと言っても攻撃側がいつも多くなるので、不足した守る側にはある一定の力で勝負する教師が参加する。
毎年進級試験が開催されるのだが、一種の祭り化しているため、学園は相当な賑わいを見せるのが常だ。
あちこちに結界が張られた通称「盤」の回りには沢山の観衆が集まっていた。大半は学園の学生や両親などであるが、中には役所の人間などさまざまな人たちが集まってくる。学生たちの今後の道を決める重要な試験であるともいえる。
そんな進級試験の中、今回の一番人気の対戦は、攻撃に回ったルシールと守備に回ったウォルターの一戦だ。
どちらも優秀で有名だが、これまで一度も当たった事がない。それというのも二人とも同じ攻守に回ることが多かったため、対戦することはなかったのだが、教師たちや学生たちの間では一度対戦を見てみたい人物に挙げられていた。
今回それが見れるとあって盤の周りには人垣ならぬ、人の山ができたほどだ。
さて、その二人の対戦であるが、習得しているうちの最高呪法での対戦となった。もちろん手加減は許されない。
もしもの時のために教師らが配置されているものだが、この二人の対戦の時だけはその数が倍になった。それだけ見ても二人の実力のほどが分かる。
ウォルターが守備結界を張ったところにルシールが攻撃を開始する。
最初の一撃はルシールに分があった。わずかな法記の綻びを狙いそこに攻撃を集中させることで一気にたたみかける。しかし、すぐにそれを修復し、なおかつ攻撃を防ぎながら強化を図るウォルターの結界は付入る隙がないほど完璧に仕上がっていく。
しかし、そこで終わらないのがルシールである。強化されていく結界の法記を外側から書き換えるという技をやってのけた。攻撃しながら法記を書き換えるとなるとかなりの高度な技が必要だが、何よりも強固な精神が必要だ。
書き換えが起こってりる部分に電光が走り、周りの観衆もさすがに避難しなければならないかと思うほど激しかった。しかし、その電光も徐々になくなっていき、最終的に法力の尽きたルシールが負けとなった。
ルシールがどさりと膝を付いた瞬間。周りから審判の声が聞こえなくなるくらいの歓声が轟いた。それは二人への賛美であり、興奮であった。
四つん這いになって息を整えるルシールが対戦相手を見ると、ウォルターも膝に手を当てて、立っているのがやっとと言った具合でかなり苦しそうに息を整えていた。実力の差では五分。もしかしたら勝敗をわけたものは意地だったのかもしれない。
激しい対戦が終わり、二人には一日休息が与えられた。
普通ならば一日に三戦ほどするものなのだが、二人の困憊ぶりに次の試合では公平を期せないということで、体力と法力を回復させる時間を与えられたのだ。
対戦のその日はさすがに気力も体力もなくなり、ぐったりと眠っていたが、翌日にはだいぶ回復して食事もしっかりと取れるようになった。
今日も当然進級試験があるので学園にいる生徒はかなり少なかった。
ルシールはいつになく静かな学園の中を、歓声やら爆発音の聞こえる場所とは逆方向へと歩き出した。
静かな場所でお茶でも飲みたいと思い、カフェへと向かう。
学生寮や、教師寮、研究所などが立ち並ぶ一角を抜けるとぽっかりと広場が現れる。その場所に三つほど屋台のカフェがあり、青空の下一枚の巨大な布が宙に浮かんでいる。その下に椅子とテーブルが並べられ、適当に座って過ごすのである。
今日はコーヒーにたっぷりミルクをいれてもらい、ちょっと甘めのケーキを選ぶ。学生なのでお金はかからないが、お金代わりのコインを置いていく。
「昨日はいい試合したんだって?」
「あいかわらず耳が早いですね」
「この時期になるとルーシーは有名だからね。今回は先生方待望のウォルターとの一戦だったとか」
「負けちゃったけどね。でも確かにいい試合だったと思うわ」
カフェの主人とそんな話をしてから席に着く。一番端っこの場所で、視線を横にやれば噴水がすぐそこにある。時々小鳥がやってきて水浴びをしていく癒しの場所だ。
比較的静かな場所ではあるが、やはり時々盛大な歓声が聞こえてくる。
「今日も賑わってるなー」
「今日はエリスとマキナの対戦だからな」
歓声のする方へと視線をやっていると後ろからそんな声が聞こえた。どうやらルシールの独り言への答えのようだと思い、振り返ると、そこに意外な人物が立っていた。
「ここ、いいか?」
「…ええ、どうぞ」
カップを持って聞きながら、すでに隣に腰掛けている男は昨日の対戦相手。黒髪に赤い瞳の珍しい組み合わせのかなり長身の男性だ。
他にも席が空いているにも関わらず、わざわざここに腰掛ける理由があるとしたら、一つしか思い浮かばない。
「何か用でも?」
カップを傾けつつこちらをちらりと見つめてくる彼に聞いてみるが、にやりと笑われた。しかし、そのまま何も発することなく、ゆっくりテーブルにカップを置きこちらを観察するうに見つめてくる。
「何?」
その視線がなにやら不穏なものが含まれているような気がする。彼が負けたのなら何か因縁でもつけられるのかと思うが、そうではない。彼は勝ったのだからルシールに何か言われる筋合いはないはずだ。少し身構えると彼はまっすぐに見つめて口を開いた。
「お前、俺の事が好きだろう」
突然投げられた言葉を受け止めることも避けることもできず、ただひたすらその言葉の意味を頭の中で再生し続けた。
好きというのは、心が引かれるということで、他には確か自由にするとかそういう意味合いでも使われたりする言葉で、いやいや、彼は確かに今「俺の事が」好きだろうと言った。それも疑問ではなく確認で。
ここで問題なのは、彼とルシールの間にそんなものができるほどの関わりがあったのかということだ。
ウォルターのことは以前から知っている。進級試験のときにいつも教師たちから「一度ウォルターとの対戦を見てみたいものだ」と言われていて、どんな人物なのだろうと思ったし、実際に彼を見たことがある。
しかし、学ぶ教室が違うので親しくなるほどの接点もない。学年での成績は彼のほうが優秀なので「闇狩り」に出る際にもパーティーを組まされることもない。
そう、接点はこの学園で同じ学年だというくらで、他に彼の目に止まるような事はなかったはずだ。
いや。厳密に言えば違う。
昨日までは、と言うべきか。
思考の海からようやく這い上がり、目の前の不遜な男に何と言ってやるべきかと再び思考の海へと落ちかけたところでウォルターが動いた。
どうしたのだろうとその行動を追いかけると、立ち上がったウォルターがにやりと笑ってこちらを覗きこんでくる。
赤い瞳は割と珍しい。普通はもっと色素の薄い人物が持っているものだが、ウォルターは全体的に濃い印象だ。真っ黒な髪に、きりっとした眉。睫毛も長いんだなと認識し、その顔が思いのほか近いことにようやく気がつく。そのときにはすでに唇に柔らかな感触。口付けられているのかとどこか遠くで認識した。それなのにお互い目はしっかり開いたままで、ぼやけるほど近くで見た赤い瞳が笑ったのが分かった。
その瞬間に彼を押しのけ立ち上がり、がたりと椅子を倒して後退して、たった今無礼を働いた男を指差して何か言おうと口をパクパクさせてみたが、何を言うべきか全く思いつかない。
「宣戦布告だ。ルシール。絶対に好きって言わせるからな」
言葉を忘れたルシールとは対照的にウォルターは高らかにそう宣言し、カップの残りを飲み干して、にやりと笑うと去って行った。
「な、何? なんなの? 私何かした??」
その後しばらくは彼の行動と言葉を考えに考えたが、結局答えが出るわけでもなく。
だいたいがこれから接点が増えることもないはずなのだからと、精神衛生上今日の出来事は忘却の海へ放ることした。
しかし、宣言されたのが「宣戦布告」であることを忘れてはいけなかったのかもしれない。